高速鉄道網が確立されている世界の各地域は、高速鉄道が都市や地域を結ぶことで、経済的・社会的発展をもたらす革新的効果を有すことを本質的に理解している。500km以上離れている東京~大阪間を、新幹線を使って毎日50万人近い乗客が行き来する日本の経験は、ゴールド・スタンダードである。

半世紀以上にわたり運行されてきた新幹線は、もはや日本と同義であり、日本のビジネスのやり方やどのように人と人とをつなげるかに変革を起こし、未来を形作ってきた。

有人の大陸にして、高速鉄道のある未来に乗り出すことができていない唯一の国として、オーストラリアは他の世界各国の成功と経験を活かさなければならない。

一つ明らかな教訓は、計画的に高速鉄道を整備した者は、この重要なインフラから最も恩恵を受ける、ということである。

日本では、政府が人口増加に伴う需要を見極めながら、高速鉄道ネットワークが持続的に発展・成長できるよう、長期的な視点で高速鉄道計画を策定してきた。そしてその計画は今日も継続している。

ヨーロッパにおいては、フランスの経験もまた、先を見る重要性を強調している。

リールは、パリとのアクセスビリティ改善を目的とした地方都市計画が功を奏し、パリと高速鉄道で結ばれたことによる明白な恩恵を受けてきた。

ユーラリール再開発地域の整備は、新たな社会的・経済的機会を促進するために必要だった高速鉄道への注目を集めた。

現在、この地域はフランスで3番目に大きな商業地区となり、高速鉄道を原点とした都市開発と調和しながら、イノベーション文化を推進している。

同じことはイギリスでも見られる。キングス・クロスは、元々ロンドンとヨーロッパとを結ぶ高速鉄道ターミナルであったことを踏まえて取り組まれた再開発プログラムに着手して以来、新たな雇用の拠点として不動産価値が上昇している。

これらの事例は、高速鉄道が「より長期的な課題」として残っているオーストラリアにとって、貴重な経験である。

長距離にわたり主要都市が広がるオーストラリアとしては、東海岸の都市間に高速鉄道を導入するポテンシャルは魅力的である。

高速鉄道の導入に否定的な人々は、高速鉄道を導入するためには、オーストラリアの人口が少なすぎること、そして都市間の距離が離れすぎていると主張する。しかし、2013年のオーストラリア連邦政府による高速鉄道実現可能性調査は、これらの見解に異議を唱える。

時速350kmの高速鉄道であれば、メルボルン・シドニー間、シドニー・ブリスベン間のCBD (Central Business District:中心業務地区)からCBDへの移動を3時間以内で達成することができ、これは広く認識されている、航空機から電車への移転に求められる上限時間にも収まる。

オーストラリアの都市は、世界でも有数の人口密度を誇る。

シドニー、メルボルン、ブリスベンの3大都市はいずれも急成長都市であると確認されており、その人口は今後40年間で68~83%増加すると予測されている。

東海岸の都市間を効率的、かつ大量に結ぶ輸送サービスの需要は、2075年までに既存および現在計画されている道路、鉄道および航空サービスの輸送能力を上回る可能性が高い。

シドニー・メルボルン間の航空路は、現在の人口であっても、コロナウイルス以前は世界で2番目に忙しい国内路線で、2019年には900万人以上が利用した。

高速鉄道を支えるだけの国内移動需要がオーストラリアにあることは明白であり、高速鉄道は、毎日こうした移動を行う多くのビジネスマンに対し、競争力のある選択肢を提供することになる。

かつてドイツのケルン~フランクフルト路線の鉄道網整備がビジネスマンを鉄道利用へ大幅にシフトさせたように、オーストラリアでもモーダルシェアを拡大する機会が明らかにある。

しかし、このようにオーストラリアに明白なポテンシャルがあったとしても、まずは根本的な課題に取り組まなければならない。

オーストラリアの鉄道網は連邦政府が全国的に統括しているのではなく、むしろ州レベルが管轄している。

高速鉄道がもたらす多くの利益を実現するために、明確かつ長期的な計画を立てた他の国々と異なり、オーストラリアは、将来的に鉄道網を最大限に活用するために、まずは統括された国家的アプローチの確立に務めなければならない。

さらには、高速鉄道整備のための回廊が未だ確保されておらず、これは鉄道網の将来的な成長を確保するため優先課題として残る。

高速鉄道回廊整備のための土地取得には、オーストラリアの政府の3つのレベルでの協力が必要となる。すなわち、連邦、州、自治体である。この協力を実現するためのコストは、時間の経過と共に上昇していくことが明白なので、回廊の取得はオーストラリアの関係政府にとって必須かつ緊急に取り組むべき課題である。

オーストラリアの独立したインフラ・アドバイザーであるInfrastructure Australiaは、この課題を認識し、2016年、Infrastructure Priority Listに東海岸高速鉄道の回廊保全を追加した。

回廊保全が優先度の高い課題として認識された現在、オーストレージアン鉄道協会(ARA)は、適切な時期が到来した際に高速鉄道が実現されるよう、回廊保存をできる限り迅速に進めるべきだと主張している。

一方で、現在連邦政府と州政府は、オーストラリアに新たな価値をもたらすため、鉄道の速度向上に取り組んでいる。地方への乗り入れと主要都市間を結ぶオーストラリアの鉄道網は、現状において速度、頻度、信頼性の観点から世界標準に達していない。

Fast Railは、オーストラリアの主要都市とその周辺の地方都市とをよりよく結ぶうえで、必要かつ短期的に注力すべき計画であると広く受け入れられている。

速度と頻度の向上、乗換時間の短縮をすることで、鉄道が主要戦略的ルートにおいて、道路に対しより競争力を持てるよう、既存鉄道網の先進的アップグレードが模索されている。

イギリスで西海岸近代化プロジェクトが意義深く実体的な成果をもたらしたように、オーストラリアの既存鉄道網のアップグレードに対し、段階的かつ集中的な投資が行われれば、今後5年から10年の間に大きな違いをもたらすだろう。

既存鉄道網のアップグレードは、高速鉄道が現実となった際に、良い補完的役割も果たすだろう。

オーストラリアの長期的な成長予測は、高速鉄道がオーストラリアの将来の一部となることを保証しており、その導入への計画策定は今、始めなければならない。その第一段階は回廊取得である。

すでに同じ道を先に歩んできた国々による国際的な教訓を踏まえ、我々には、我々の経済や社会のため、この一歩を大きな成功とするためのあらゆる可能性が開かれているのだ。

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