多くの国が順調に経済成長を遂げていた最中、コロナウィルス(COVID-19)は、2019年の後半に突如世界に衝撃を与え、1900年代に猛威を振るった感染症と同じように、感染は世界中に拡大した。

このような状況下の中、命と経済とのバランスの中で、どのように対処するかが問題となる。

もちろん、確かな解決策があるわけではない。命と経済はトレードオフすることができないのである。コロナウィルスのパンデミックはピークを迎え、医療や病院の対応能力、特に人々の安全を確認するための検査体制に応じて、徐々にその流行は緩やかになっている。感染拡大防止の対策として実施された外出自粛とロックダウンの指示は、瞬く間に人々の移動を制限し、自由に外出することはかなわなくなった。

公共交通機関の大半は、国内・越境移動を問わず、運行サービスの減少を行うことで影響を受けている。都市部の混雑した大量輸送機関はクラスター感染のリスクとなった。一部の国では、公共交通機関を利用する人々に対してマスクの着用を命じたが、混雑した電車内でソーシャルディスタンス(社会的距離)を強制することは難しかった。都市間の移動は敬遠され、もしくは目的地の都市によって厳しく管理された。全ては、人々の移動を制限し、感染拡大を食い止めるためだ。

鉄道輸送は難局に直面しており、鉄道運行や関連事業における収益の減少のみならず、公共サービスとしての信用も影響を受けている。

緊急事態宣言が多くの国で発令されたことは、公共サービスに対してだけでなく、ビジネスにも大きな影響を与えた。公共交通機関の運行が非常に限定されたため、乗客数は大幅に減少し、航空会社はほとんどのフライトを休止した。しかし、貨物輸送については、国の物流システム維持という役割のため、多くの国でその運行が継続された。鉄道事業者の中には、逼迫した病院から比較的ゆとりのある病院(その逆のパターンもある)への医療機器や医療従事者の輸送を支援するために、旅客用列車の車両を貨物輸送仕様に変更した例もある。

上記はフランスの高速鉄道「TGV」の例である。TGVは、車内に集中治療室の設備を設置することで、より対応能力のある病院に医療スタッフや感染患者を移送する支援をしてきた。可動式病院といったところか。TGVは、高速性という利点を活かし、短時間で患者や医療機器を運ぶことを可能にした。今回のような危機に直面したとき、鉄道輸送の役割もまた、一部の航空会社のように、その国の求めに応えるため、即座に変化した。これは、鉄業界業が将来考慮すべき側面の一つである。

将来の経済発展はどのようなことが起こるのだろうか?コロナウィルスはいつ終息するのか?確かなことは何もない!しかし、各国はもっと慎重に前進しなければならない。

ほぼ全ての国が、経済を以前の状態に戻すため、何十億ドル、何兆ドルも費やさなければならない。支援は、コロナウィルスによって影響を受けた失業者や中小企業、そして航空会社といった大企業が優先される。

鉄道輸送の未来!!

コロナウィルスのパンデミックは、グルーバル化した現代において、ヒト、カネ、物資、サービスなどの自由な移動に大きな影響を及ぼした。このような事態を受け、全ての国が今までの経済政策を再検討することになる。今までのような生活に戻るのか、それとも最近よく聞くような”新しい日常”へと舵を取るのか?しかしどちらにせよ、我々の生活様式やビジネスのあり方は変化するだろう。

コロナウィルスの影響によって、短期・中期的に、物流システムを除くほとんど全ての交通サービスが停止された。人々の移動を防ぐためのロックダウン措置によって、全ての航空会社は国内線と海外線の両方の便数を減らす必要があり、列車の運行もその例外ではなかった。陸路による物流輸送は、国のサプライチェーンを結ぶ唯一の手段として、その役割を果たした。人々の移動は、外出制限により許されなかった。

しかしながら、パンデミックが収束した際には、直ちに観光業と運輸業を再開する必要がある。とはいえ、我々が今後目にするのは、すべての乗客と労働者を対象としたより厳格なスクリーニングだ。あらゆる感染を防ぐため、バスや列車、飛行機はもっと定期的に掃除を行う必要がある。車両の殺菌もその例外ではない。一部の国ではすでに、少なくとも1日に1回、またはそれ以上の頻度で列車を清掃するという新しい取り組みを行っている。これら対策の実施期間は、新ワクチンがいつ頃利用可能となるか、感染患者への有効な薬がいつ頃投与可能となるかに左右される。おそらく、少なくとも今から1年はかかるだろう。

長期的には、コロナウィルスの流行が世界中の人々の行動、日常生活、経済活動にどの程度の影響を及ぼすかが問題となる。グローバル化は、ヒト・モノ・サービスの自由な移動を推し進めたが、今後は、ITが我々の生活にもっと大きな役割を果たすようになるだろうか。

一つ確かなことは、人々は今後も変わらずに物理的な移動を必要とするということ。したがって、観光業と運輸業は、今後も経済発展に重要な役割を果たすだろう。医療インフラの発展にはもっと多くの資源が必要となる一方で、輸送インフラもまた、加速的に発展させる必要がある。人々が混雑した車内に長時間乗車する必要がないよう、移動時間を短縮するため、輸送能力はより効率であるべきだ。これは、人々が個々に車を利用することを思いとどまらせるためにも重要である。

高速鉄道が担う役割は必要不可欠なものである。単に航空会社よりも運賃が安いということだけでなく、将来より厳しい感染症対策がなされたなかで、チェックイン時間を節約することができる。なぜなら、高速鉄道は国内や国をまたいでの長い距離をより短時間で移動すること可能だからだ。タイの高速鉄道プロジェクトでは、バンコクへの地方路線の乗り入れが進められている。同様に、どの国にとっても交通渋滞が深刻な問題であることから、首都や主要都市における都市型大量輸送システムの整備は必要不可欠である。

他方、今回のようなパンデミックが将来再び起こった際、鉄道業界がどのように対処するかを真剣に検討することは非常に重要。高速鉄道の技術に疑いの余地はない。しかし、例えば座席位置の設計や換気能力、医療機器の整備など、感染症に対する対処能力を高めるため、車両の設計は再検討するべきである。また、駅、とりわけ、異なる路線が合流し、多くの乗客が集まる中心部の主要駅は、その対策を忘れてはならない。例えば、検温の実施は感染症の疑いがある乗客を検出するために必須である。これは全てのメーカー、鉄道事業者、そして設計者たちが考慮すべき新しいリスクである。

結論として、この世界的なコロナウィルスの大流行が今、人々の生活と経済に影響を及ぼしていることは明らかである。鉄道業界の発展もまた、再構築されなければならず、さらなる技術の発展が求められる。鉄道業界の課題は、とりわけ高速鉄道および都市交通輸送(駅施設含む)は、列車の種別に関わらず、運行面だけでなく、自然災害への対応を除いた目に見えない敵からどのようにして乗客の安全を確実に確保するかにある。これは人々の健康を守るための、鉄道の新たな未来である。

他の記事を見る