高速鉄道の時代が幕を開け、数多くの国々でプロジェクトが実施・計画されている。2010年以降、その数は2倍になり、2020年中旬までにさらに倍増することも十分あり得る。

しかしここで、私たちは発展を続けるグローバルパターンに対して、いったん現実的な目を向けなければならない。

現代世界が大まかに民主主義と専制政治に分けられるように、あるいは西と北に対して東と南があるように、成長を続ける高速鉄道の世界も分断されている。

地政学の観点から言うと、西洋の自由市場資本主義(しばしばワシントン・コンセンサスと呼ばれる)に対して中国の経済モデルがあり、20世紀には中国が西洋主導の世界機関に対して度重なる圧力をかけてきたことが伺える。例えば、中国の最高指導者たちは、国際貿易通貨として元をドルに並ぶ基軸通貨とすることを求めている。

高速鉄道の話に立ち返ってみると、同じような分断があることがわかる。まず一つの陣営は、日本の新幹線のモデルを真似した、あるいはインスピレーションを受けたシステムを世界中で採用している。これは誰もが疑うことのない、圧倒的な経験、成功例と高性能、そして安全性とともに高速化を追求した先駆的なシステムであり、衝突回避を組み込んだテクノロジーと最高基準の環境性能を誇る。

もう一つの陣営は中国ネットワークだ。最新の動向では、27,000kmという驚愕の高速路線を有し(世界合計は43,000km)、中国式設計の確立に向けたゆまぬ努力を続け(-丁寧な言い方をすれば-その大半は日本から「借りたもの」である)、一帯一路構想によって中国モデルをアジア全域に広げている。これには、北京・モスクワ間に世界最長の高速路線を敷設し、路線沿いに9都市を新たに開発すると噂される計画も含まれている。

2つのシステムにまたがる境界線は明確ではなく、重複している点も多い。例えば、サウジアラビアは民主主義国とは認識されていないが、新幹線のパターンに倣った巨大なインターシティシステムを模索している。このシステムには、メッカ、メディナ、ジッダ、そして、新たに開発中の「グリーン」キング・アブドラ・エコノミック・シティ(KAEC)が加わる予定である。

多面的な民主主義国家であるインドネシアは、熾烈な競争(主な争点は費用であった)を経て、中国ベースのHSシステムを採用した。この選択がどう転じるのか、失望と後悔を呼ぶのか、それはまだわからない。

最も巨大な民主主義国であるインドは、新幹線方式を採用した。最富裕国である米国も同様である。一方でヨーロッパ諸国は、独自の高速システムを構築し、重量のある機関車といった鉄道安全に対する古い概念を採用している。しかし近年では、高速交通機関を求める有権者の声を受け、日本の技術を学び、ヨーロッパを遥かに凌ぐ日本の運転基準に追いつこうと躍起になっている。

鉄道の生みの親である英国は、超高速鉄道技術の進歩で遅れを取っている。従来のヨーロッパと、アジアの鉄道哲学の間をさまよっており、いまだ最終的な決断を下すことができていない。英仏海峡トンネルを通る大陸システムとの互換性を有することが望ましいのは明らかである。日本の高速技術エンジニアが粛々と英国鉄道産業の各所に取り組んでいる一方で、HS2の運行事業者として、現在応札した企業体のなかで最も存在感を示しているのが中国であるのも、どこか奇妙で不穏である。

しかしながら国際的なレベルでみると、鉄道技術は政治的な力の相互作用に沿って形成されていると言える。この中心となるのがインドであり、あらゆる利害を持つ人々が広大なこの国を開拓し、協調することを画策している。

米国は、中国という大国を封じ込めるため、米国、日本、オーストラリア、インド(いわゆるクワッド)が、安全保障、また防衛協定のもとさらなる連帯が必要であるとの見解を示している。一方、中国の見解は正反対だ。中国政府はインドに急接近し、国境をめぐる紛争に終止符を打ち、パートナシップを結ぶことを提案している。

インドの目的は別にある。ナレンドラ・モディ首相は、欧米、特にコモンウェルスとのネットワーク強化に力を入れている。しかし、モディ首相は中国も訪問しており、習近平と長時間にわたる会談を開き、友好的な関係を築いている。おそらく、彼はインドが独自の道を開拓することを望み、他の誰からも影響を受けたくないのだろう。

鉄道、特に高速システムを国際的に発展させる上での国際シーンからのメッセージは明確である。特に、政治的な思惑やその他の方策によって中国が費用を大幅に引き下げた場合は、この大国との競争は熾烈になる。廉価な選択肢に惹かれてしまうのは当然であり、特に低所得国が、中国のオープンかつ無条件なオファーに引き寄せられてしまうのも不思議ではない。

しかしそれでもなお、米国は中国企業を断固として受け入れていない。鉄道だけではなく、その他すべての企業も同じである。ドナルド・トランプと彼が率いるチームは、「産業的に重要な技術」と呼ばれるものに障壁を作り上げた。複数ある米国の高速鉄道プロジェクトは、日本に有利な状況であり、この状況はこれからも続くと考えられる。

21世紀のデジタル時代には、世界規模で新たなゲームがプレイされている。高速鉄道の開発も、他の先進技術と同じかそれ以上に盛り上がりを見せている。

確かなことはひとつ。すべての政治的軋轢のなかでも、高速鉄道が可能にする簡単で快適な輸送機関と、継続的なイノベーション開発への要請は強まる一方である、ということである。かつてはすべての輸送機関の専門家が、廉価な空の旅が鉄道を過去の産物にするだろうと予想していた。しかし今は、終わりのない空港の遅延、混雑、セキュリティーの行列やその他のフラストレーションを背景に、高速鉄道による旅行の容易さが、鉄道やあらゆる施設を備える鉄道駅に顧客を飛び戻すこととなった。そしてそれは、確かな鉄道の未来にもつながっている。

専門家の予想が外れるのは、今に始まったことではない。

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