2022年4月14日、前月に発生した地震の影響で約1か月間運転を見合わせていた東北新幹線が全線で運転を再開した。車両の脱線に加え地上設備も多数被害を受けた中、当初の想定を下回り1か月という短期間での復旧を成し遂げられたのは、関係者の努力、鉄道・運輸機構やJR各社の協力、そして過去の教訓をもとに講じられた対策が功を奏したことによるものであった。

3月16日深夜、日本の東北地方、福島県沖で最大震度6強(マグニチュード7.4)の地震が発生した。多数の被害が発生した中、新幹線もその例外ではなく、当時福島駅~白石蔵王駅間を走行していた東北新幹線「やまびこ223号」は、地震を受けて停車した。その後の確認により、1編成17両中16両が最大で約1,000㎜脱線したほか、沿線の土木構造物の損傷や電柱の折損、軌道変位、駅設備の破損等、東北新幹線全線で約1000箇所に被害が見られた。しかしながら、最も重要なお客さまの命が守られたのは、これまでの地震対策が実を結んだ結果である。

ご存知の通り日本は地震大国であり、これまで鉄道事業者は様々な安全対策を講じてきた。とりわけ2004年の新潟県中越地震によって、日本で初めて営業中の新幹線が脱線した事象を受け、同地震以後、各社は新幹線の脱線防止対策の強化に励んできた。

例えばJR東日本では、従前より沿線や海岸・内陸部に設置された地震計で地震を早期に検知して新幹線を緊急停止する「新幹線早期地震検知システム」を導入していたが、2005年より沿線の地震計の増設や地震の推定方式を変更するなど、地震発生時に一秒でも早く列車を停車できるシステムの整備に努めてきた。その後も、検知システムの更なる向上に取り組み、海底地震計の情報を用いた早期地震検知手法を開発し、2017年からは海底地震計の情報も「新幹線早期地震検知システム」に組み込んでいる。

地震発生時の「列車緊急停止対策」に加えて、同社は「耐震補強対策」と「列車の線路からの逸脱防止対策」にも力を入れてきた。1995年の阪神・淡路大震災以後、より一層落橋防止対策や高架橋柱や橋桁の耐震補強対策に取り組み、新幹線においては大きな被害が生じる可能性があるせん断破壊先行型の高架橋柱を2007年度末までに補強し、その後も更なる安全性向上のため、様々な補強を継続的に実施している。地震の規模などによっては、脱線を完璧に防ぐことは困難と考えられることから、万一の脱線においても、被害を最小限に抑えるため、新潟中越地震の教訓から車両側では台車に逸脱防止ガイドを設置し脱線した場合に線路から大きく逸脱することを防ぐ仕組みを講じている。

地上側では、脱線した場合に車輪等がレールの継目部に当たるときの衝撃を低減させるために、接着絶縁継目の形状を改良した。また、レールを締結する金具が破損したときにもレールによるガイド機能を維持するために、レール転倒防止装置の設置を進めている。

JR東日本に限らず、他の新幹線事業者も脱線・逸脱防止対策を講じており、例えば東海道新幹線や九州新幹線では、脱線そのものを極力防止する「脱線防止ガード」の整備を進めている。

設備などのハード面ばかりが注目される災害対策ではあるが、ソフト面の対策も極めて重要である。災害が発生した際の社員一人一人の対応能力・技術レベル向上のため、鉄道事業者は日々の教育訓練に加え、定期的に異常時を想定した防災訓練等を実施しており、日頃から緊急時の初動対応や乗客の避難導線、帰宅困難者の対策等を確認している。

上記のように、これまでのハード・ソフト両面の対策によって、此度の最大深度6強を記録した地震においても、脱線事象はあったものの、被害を最小限に留めることができた。また、東北新幹線が不通の間も、早期に復旧した並行する在来線にて継走を行うなどして、東北新幹線が復旧するまでの間、乗客の足を止めないよう、公共交通機関としての使命を果たした。

今回の脱線事象についてはまだ不明な点も多く、現在原因究明のための調査が行われている。此度で得られた知見は、今後の対策にも必ず活かされることだろう。何よりも大事な「乗客の命」を守るため、新幹線の安全運行に向けた取組みはこれからも続く。

参考URL

https://www.engineer.or.jp/c_cmt/rinri/topics/008/attached/attach_8249_1.pdf

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E8%B6%8A%E6%96%B0%E5%B9%B9%E7%B7%9A%E8%84%B1%E7%B7%9A%E4%BA%8B%E6%95%85

https://toyokeizai.net/articles/-/115150?page=3

https://www.jreast.co.jp/press/2005_2/20051020/no_3.html

https://www.jreast.co.jp/eco/report/pdf_2012/p56.pdf

https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001446503.pdf

https://faq.jr-central.co.jp/detail/faq000097.html

https://www.jreast.co.jp/press/2020/20210303_ho01.pdf

https://company.jr-central.co.jp/others/report/_pdf/report2021-05.pdf