
トヨタやホンダなど、自動車メーカーの名前であれば、皆一度は耳にしたことがあるだろう。他方、高速鉄道を支える鉄道車両メーカーに関しては、知らない方も多いのではないか。高速鉄道システムは、有形の要素(ハード)とオペレーション&メンテナンスを始めとした無形の要素(ソフト)が集積して初めて成り立つものであり、IHRAへも正会員として多くの関連企業に参画いただいているところである。
今回は新幹線を支える鉄道関連メーカーの中から、「車両」の製造に関わるメーカーにスポットを当てて紹介したい。
■日本の鉄道車両産業
一口に鉄道車両メーカーと言っても数多くの企業が存在するが、新幹線車両を日本国内で製造しているのはIHRAの正会員企業でもある日立製作所、総合車両製作所(J-TREC)、川崎車両、近畿車輌、日本車両の5社である。
各社それぞれの高い技術力を活かし、新幹線の絶対的安全性と快適性・利便性を支えている。例えば一昨年東海道・山陽新幹線に導入された最新車両である「N700S」は、床下機器の小型・軽量化により柔軟に編成両数の構成変更を可能とする「標準車両」を実現したほか、東芝が製造したリチウムイオン電池バッテリーを車両に搭載することで、停電時においても自力走行することが可能になるなど、安全性、安定性、快適性、環境性能などあらゆる面で最高の性能を備えている。
また、例えば台湾高速鉄道において、川崎重工(現 川崎車両)などが製造した「700T」型の車両が採用され、インド高速鉄道においてもE5系をベースとした車両が導入予定であるなど、活躍の場は国内に留まらない。
■日本の鉄道車両メーカーの挑戦
世界に目を向けてみると、とりわけ欧州のシーメンスとアルストム・ボンバルディア(欧州鉄道メーカーのビッグ2)、そして2015年に誕生した中国中車(CRRC)が世界の3大鉄道メーカーと言われており、世界シェアで見ても、国内に圧倒的な需要がある中国中車、世界的な鉄道メーカーで欧州以外のマーケットにも強みを持つシーメンス、アルストム・ボンバルディアが頭一つ抜けている状況だ。
その反面日本は、世界と比較しても充実した鉄道網を有しており、マーケットとして見ればある程度成熟しているといわれている。そこで各社は、国内の事業で培った高い技術力と生産力を強みに、新たなマーケットの開拓にも挑んでいる。日立製作所では海外のマーケットを開拓すべく、2015年にイタリア企業のアンサルドブレダとアンサルドSTSを買収、2021年には欧州で実績とノウハウがあるフランスのタレス社の鉄道信号関連事業の買収決定を発表するなど、積極的に世界に打って出ている。その甲斐もあって、先般は仏アルストムと手を組み、英国の次世代高速鉄道計画「ハイスピード2(HS2)」の車両54編成の受注に成功した。これは日本勢として初めて欧州の次世代高速鉄道車両を受注した案件でもあった。
もちろん他の車両メーカーも積極的に海外事業に取り組んでいる。例えば直近で言えば、近畿車輌が(高速鉄道ではないが)2021年に三菱商事とタッグを組み、エジプトのカイロ地下鉄4号線第一期用の鉄道車両を受注しており、2025年~2028年にかけて順次導入する予定である。
2015年に「持続可能な開発目標」(SDGs)が採択されて以来、世界中で環境やサステイナビリティに対する意識が高まっており、他輸送機関と比較してエコフレンドリーと言われる鉄道についても大きな注目を集めている。また、アジアを中心に高速鉄道を含めた鉄道マーケットは将来的に拡大すると予想される。IOTやAIなどのデジタル技術も急速に進化する中で、今後も鉄道車両の進化と関連メーカーの挑戦から目が離せない。