
新型コロナウイルス感染症の影響により、人々の移動が厳しく制限される中、観光業や運輸業は甚大な被害を受けており、今もなお苦境が続いている。しかしこのような状況下においても、国の基幹インフラとして高速鉄道は変わらず運行を継続してきた。さらに、鉄道事業者はコロナ収束後の未来も見据え、様々な施策にも並行的に取り組んでいる。本日はその一例を皆様に紹介したい。
1)駅や新幹線車内のビジネス環境整備
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、ICTを活用したテレワークやウェブ会議といった、働く場所を選ばない新しい働き方が急速に普及した。このような変化を受け、鉄道事業者は乗客のワークスタイルに応じた移動時間を提供すべく、駅や車内のビジネス環境整備に力を入れている。
例えば東海道・山陽新幹線では、2021年10月より、モバイル端末等を気兼ねなく使用して仕事を進めることができる「S work 車両」を「のぞみ」号の7号車に設定する。この車両の客層はビジネスマンが中心となるため、仕事に集中しやすい環境であるほか、昨年デビューした「N700S」においては、無料かつ従来の約2倍の通信容量を備えたWi-Fiの使用や、膝上クッションやPC用充電器等、ビジネスサポートツールを無料で借りることができる。これにより、従前より快適に車内で仕事を進めることができるだろう。なお、料金はEXサービス(JR東海のインターネット予約サービス)で普通車指定席を予約した場合と同額となる予定だ。更に、来年の春以降「N700S」車内にビジネスブースが導入される予定である。これにより、今後は周囲を気にすることなく、新幹線車内で打合せを行うことができる。車内だけでなく、駅においても環境整備は進められており、一部の駅においては今年中にビジネスコーナーやワークスペースが設置される予定である。
移動時間はコストとして捉えられることも多かったが、より快適かつ有効的に移動時間を使える環境が、整備されつつある。
2)新幹線を活用した貨客混載事業
コロナ禍において、JR各社は、新幹線で荷物を運ぶ「貨客混載」事業に着手している。現在各社の主な取扱い商品は、野菜や果物、魚介類といった、鮮度が重視され、速達性が高付加価値につながる商品である。新幹線が誇る高速性や、航空機のような大規模な減便がなく、天候にも左右されにくい、安定性・定時制が、新幹線輸送の強みとなっている。
例えばJR東日本では、今春から函館や北陸の野菜、鮮魚などを東京に運び、スーパーや飲食店などの駅外に届ける事業をスタートしており、大宮駅には常設ショップも誕生している。朝採れの食材を、その日のうちに東京で堪能することができるのだ。今後は、こうした生鮮食品に加え、工業部品等のビジネス利用、個人間での利用等への拡大も期待されている。