
現在、コロナウイルスの影響によって高速鉄道を含む多くの公共交通機関は苦しい状況に立たされている。そんな状況下においても、高速鉄道を運行する各鉄道事業者は公共交通機関の使命である「安全・安定輸送」を守り続け、また現状に満足せず、新技術の導入にも積極的に取り組んでいる。
JR東日本は2020年11月、新幹線の自動運転の実現に必要な技術の蓄積と検証を行うため、2021年の10~11月頃(予定)より新幹線E7系を使用した試験走行を「新潟駅~新潟新幹線車両センター」間の約5キロで行い、試験走行の評価及び課題の抽出を行うと発表した。同社は、グループ経営ビジョンである「変革2027」の中で、ドライバレス運転の実現を掲げており、自動列車運転装置(ATO)の開発を進めている。今回の走行試験で得られた知見を蓄積し、将来の新幹線の自動運転を目指したATOの開発を進めていく。この実証実験は将来の列車自動運転化にとって重要な意味を持つ。
今回の試験で検証するATOの機能は以下の4点だ。
- 列車の準備が整ったことを条件に、遠隔で発車させること
- ATOが自動的に列車の加速・減速を行うこと
- 自動で決められた位置に停車できること
- 緊急時には遠隔で列車を止めることができること
在来線においては、日本では1981年に開業した大阪のニュートラム、神戸のポートライナーを皮切りに、日本以外でもシンガポールのMRT北東線やドバイメトロ等で、「ドライバレス運転」は既に行われている。ドライバレス運転導入にはクリアすべきハードルが多数あるが、特に、人が線路に近づくことができない環境整備(踏切無し、地下や高架での運行、ホームドアの設置等)が大きな課題として挙げられる。その課題解決のため、各国の鉄道事業者は検証を重ねている。
新幹線を含む各国の高速鉄道において、ATOが導入された実績はまだない。日本の新幹線では、安全性はもちろんのこと、平均遅延時分1分以下という驚異的な正確性や、車内に置かれたコーヒーすら零さない快適な空間などを強みとしている。これらの強みは、運転士の技術によって実現しており、ATOの導入によって損なわれるべきものではない。今後は、今まで運転士の技術によって守ってきた安全性や正確性、快適性をATOが同等レベルまで実現できるかどうかが課題となる。
とはいえ、人口減少によって将来的な労働力確保に大きな課題を抱える日本にとって、新技術を導入し、諸課題を乗り切ることは極めて重要なことである。現在日本で整備が進められているリニア中央新幹線は、東京・大阪間を約1時間で結び、三大都市圏が一体化した巨大経済圏を形成する一大プロジェクトであるが、このリニア中央新幹線においてもドライバレスでの運行が計画されている。超電導リニアについては以下JR東海特設ページにて確認できる。
Central Japan Railway Company
世界初の高速鉄道として新幹線がデビューしてから50年以上たったが、絶え間ない技術革新により安全性・正確性・快適性などあらゆる面において飛躍的な進化を遂げてきた。
今後もATOをはじめとした新技術が開発され、導入されるであろう。鉄道の進歩に終わりはない。