
地震対策 ~対策は建設段階から始まっている~
東京と大阪を結ぶ東海道新幹線では、地震が発生する前に列車を緊急停止させるTERRA-S(Tokaido Shinkansen Earthquake Rapid Alarm System)を採用している。TERRA-Sとは、地震計を沿線や海岸・内陸等に設置し、地震の主要動(S波)より先に到達する初期微動(P波)を検知することで早期に警報を発し、主要動(S波)つまり実際の揺れが沿線に到達するまでにブレーキをかけ、列車を停止させるシステムである。
こうした早期警報装置に加え、揺れが起きても車輪がレールから外れることを防止するレール装置の整備が各新幹線で進められている。これは過去の地震の経験から知見を得て開発されたもので、乗客の安全を確保する新幹線の取り組みに終わりはない。
九州新幹線は九州の南北約260kmを約1時間半で結ぶ、九州の経済・社会・観光に欠かせない交通インフラとして2011年に全線開業した。
2016年、震度7を観測した巨大地震が3日間で二度、日本の九州・熊本地方を襲った。多くの命が奪われ、住宅への被害は全壊を含め16万棟、道路は寸断され、断水・停電といった生活インフラが停止するなど、地域に大きな被害をもたらした。しかしそのような事態の中、九州を縦断する博多~鹿児島中央間を結ぶ九州新幹線は、早期に揺れを検知して緊急停止することで、乗客や営業列車への被害を最小限に防ぎ、また運行に大きく関わる構造物への影響も最小限に抑えることができた。これは、地震や自然災害の多い九州を走る新幹線として、前述の早期警報装置に加え、建設段階から厳しい耐震基準の採用等の対策が講じられた成果といえる。
とはいえ、まったく無傷であったわけではなく、土木・電気設備等の損傷のほか、回送列車が脱線したことで、全線の復旧は相当の時間がかかるとも言われた。
九州待望の新幹線として、九州新幹線は地域活性化に貢献し、人々に愛され、利用されてきたのだ。そうした新幹線を早く復活させよう、と平時から異常時を想定した訓練を積んできた関係者は、震災後すぐにその経験を活かし、知恵を結集し、一致団結して復旧に取り組んだ。その結果、まだ町に地震の爪痕が残る中、九州新幹線は震災からわずか2週間足らずで全線復旧を果たし、被災した人々に勇気と希望を与え、傷ついた地域の再生に貢献した。
九州新幹線の全線復旧は、過去の教訓を最大限に生かすこと、建設段階から災害を想定した最新の対策を講じること、そして訓練など日頃からの入念な準備が災害対策として重要であることを実証したのだ。
新幹線は、豪雨や地震への対応だけでなく、風や津波、雪、土砂崩れ、落石などに対しても、過去の経験や最新技術を活用し、乗客やスタッフの安全を最優先に、あらゆる対策が講じられている。
ハード・ソフト両面の対策が重要
自然災害への対策は、設備などハード面の対応だけでは十分でない。適切な状況判断や乗客の誘導・安全確認など、最後は非常事態でもいかに冷静に対応できるか、責任感を持ち、訓練されたスタッフの存在が重要となる。新幹線の運行は、駅員や乗務員はもちろん、影の立役者として、運行を管理する指令員、車両や土木・電機設備の管理とメンテナンスを行う作業員など、多くのスタッフで支えられている。彼らは日々の業務の中で災害対応訓練を受けており、これまでも多くの自然災害の現場で力を発揮してきた。設備などのハードに加え、それを支えるスタッフや教育といったソフト、両面が揃って初めて万全の災害対策となる。
今後も我々の予想を超えるような未曾有の自然災害が発生するだろう。一度に多くの人の命を預かる新幹線は、公共交通の絶対的使命である乗客の安全を第一に、万全の対策を期しており、その取り組みに終わりはない。安心して利用できる、これこそが公共交通機関を利用するうえで一番重要な要素なのかもしれない。

