
1964年、世界初の高速鉄道として東海道新幹線が日本で開業して以来、新幹線は今日まで絶え間ない進化を続けてきた。東海道新幹線は開業当初は東京-大阪間(約500㎞)を約4時間かけて結んでいたが、継続した技術革新の結果、現在では2時間22分までその時間を短縮。また、単に速度を上げただけでなく、乗り心地などの快適性や環境性能も大きく向上させてきた。そして2020年7月、更なる進化を遂げ、「Supreme」(=最高の)の名を冠した世界最新の新幹線が、ついにそのベールを脱いだ。


7月1日、日本でデビューした東海道・山陽新幹線の7代目新車両「N700S」。
これまでと観は大きく変化したように見られないが、いったい何が進化したのか。
一番気になるのは速度向上の有無ではないだろうか。少なくとも、東海道新幹線の区間においては、現在と据え置きの時速285㎞が最高速度となる。しかしこの速度がN700Sの限界、というわけではない。車両としては、時速360㎞の速度向上試験も難なくクリアしており、そのポテンシャルの高さを示している。東海道新幹線ようにカーブが多い区間ではなく、直線ルートであれば、そのポテンシャルはさらに活かされるだろう。
環境面への配慮も重要な課題だ。昨今では地球温暖化をはじめとした環境問題が取りざたされているが、そもそも新幹線は一度に大量・高速で人々を輸送することができ、一座席当たりのCO2排出量も飛行機と比べて12分の1と極めて少ないなど、環境に優しい乗り物である。N700Sではそこから更なる改良を加え、先頭車両にはデュアルスプリームウィング形を採用し、空気抵抗を削減。車両の軽量化も図ったことで、従前の車両よりもエネルギー効率が更に向上した。
利用者目線となれば、車内の快適性も気になるところだ。全席へのコンセント配置、全号車での無料Wi-Fi整備に加え、座席本体にも改良を加えたことでより快適な乗り心地を体験できるようになった。あまりの気持ち良さについ眠ってしまい、目的地を通り過ぎないよう注意したい。
自然災害等の異常時における対応力も、利用者が安心して高速鉄道を利用するためには必要不可欠だ。N700Sでは高速鉄道で初めてリチウムイオンバッテリーを車両に搭載し、停電時においても自走走行が可能となった。例えば地震や台風といった自然災害によって停電が発生し、駅間やトンネル・橋梁等での停車が発生した場合においても、バッテリー走行によってそこに留まることなく、駅や安全な場所まで移動することができるようになった。
また、車内のセキュリティー対策も強化されている。監視カメラの台数を一両当たり従前の2台から4台(車両によっては6台)に増設。有事の際は、この監視カメラを使いながら、全列車に添乗している警備員が乗務員と協力して対応にあたる。
そして最後に、N700Sの画期的な特徴として、床下機器の小型・軽量化によって配置が最適化されたことによって、車両数を柔軟に変更できる”標準車両”が実現したことが挙げられる。東海道・山陽新幹線で16両編成が基本だが、標準車両が実現したことで、最低4両編成での運行が可能となり、その地域の需要に合わせた柔軟な車両運用が可能となった。米テキサス州のダラス・ヒューストン間を新幹線で結ぶ「テキサスプロジェクト」においても、8両編成での運行が検討されるなど、標準車両によって世界中の需要に応じた対応が可能となったのだ。
今までにない上質な乗り心地と、更なる快適空間の実現、そして世界の需要に柔軟に対応可能となった”最高の新幹線”。乗車するのが楽しみだ。
