新型コロナは依然、世界中で猛威を振るっているが、多くの国で経済社会活動が再開されつつある。
我々が享受してきた移動の自由は、「新しい日常」に進む中で、これまで以上に大きな意義を持つのではないだろうか。
「世界最速の鉄道」といえば何を思い描くだろうか。TGV、ICE、上海リニア、Hyperloop、新幹線・・。
乗客を乗せ、時速603kmのギネス世界記録に認定された鉄道をご存知だろうか。2027年、日本で開業予定のリニア中央新幹線は、営業運転最高速度時速500kmで東京~名古屋間約300kmを40分で結ぼうとしている。この世界最速の鉄道は、開業に向けて試験走行を繰り返しているところだが、先日、新しい試験車両の完成発表があった。
従前の車両から、前方視認用カメラの位置やカラーリングが変更されたほか、何より、ガスタービン発電装置を搭載しないことによって先頭部の形状を最適化し、空気抵抗を13%下げ、消費電力や車外騒音を低減すること成功した。新車両の導入により、今後も営業運転に向けた改良が加えられるという。開業が待ち遠しい。

そもそも、高速鉄道はなぜ必要なのだろうか?

高速旅客専用軌道とATCを使ったCrash Avoidanceの原則に基づく高速鉄道は、都市間の移動を活性化することで沿線地域の発展をもたらし、人々のライフスタイルに変化が起き、国内はもとより、国境を越える高速鉄道ならば国家間の経済や社会にもTransformation(変革)を引き起こすことができる。Crash Avoidanceとは絶対に衝突しないという原則であり、踏切がなく、他の列車と併用をしない高速旅客専用線を用い、システム制御で安全が保証されている仕組みである。

日本及び台湾で走行する新幹線は、国の主要都市間を安全・高速・高頻度・大量・正確に結び、まさに基幹インフラとしてTransformationを起こしながら国の社会経済活動を支えている。また、新幹線はエネルギー効率がよく、CO2の排出量も少ないことから、航空や自動車に代わるクリーンで高効率な輸送手段なのだ。

さて、リニア中央新幹線の速さの秘密は、超電導磁気浮上式システムを用いた世界随一の最先端技術にある。その高速性は移動時間を大幅に短縮し、人々の利便性は大きく向上することだろう。
他方、公共交通機関としてその高速性と引き換えに安全性が損なわれては元も子もない。その点、リニア中央新幹線は新幹線システムの根幹である、Crash Avoidanceの原則を受け継いでいる。リニア中央新幹線の走行試験は1997年から2017年の20年間で223万km(地球約55周分)を突破しており、provenな技術であることは疑いがない。
さらに、リニア中央新幹線は、超電導による強力な磁力の作用によって地上から10cmの浮上走行を可能とし、車両は常にガイドウェイの中心位置で安定的に保たれることから、揺れによる脱線の危険性がなく、地震に対しても非常に強いシステムだ。

広々とした車内は、一編成あたりの定員が1000人で、航空機よりも多くの乗客をより早く、そして安全・効率的に輸送することが可能だ。安全・高速・高頻度・大量・正確といった、変革の諸条件を満たすリニア中央新幹線は、56年前に新幹線が誕生した時と同様に、人々の生活と経済に大きなインパクトをもたらすGame Changerとなるだろう。
リニア中央新幹線の実現は、日本のGDPの6割を占める東京・名古屋・大阪の三大都市圏の結び付きを更に強化し、巨大都市圏Super Mega Regionを誕生させるといわれている。

新型コロナの感染拡大により、我々は移動や外出の制限を経験し、新しい働き方や生活様式を学習したが、それと同時に人と直接会える喜びを再確認した。リニア中央新幹線の誕生は人々の出会いを作り、都市間の移動を活発化させ、一層柔軟な働き方・暮らし方を我々に提供してくれるだろう。また、新たな駅が建設されることで、新しい人の流れが生まれ、沿線地域の発展も期待される。地域の発展は都市間を線で結ぶ鉄道ならではの大きな特徴だろう。

超電導リニアは日本だけの話ではない

米国ワシントンDC~ニューヨーク~ボストンを結ぶ北東回廊での開発も検討されている。
北東回廊の航空需要はひっ迫しており、高速道路の渋滞も激しい。超電導リニアならワシントンDC~ニューヨーク間を1時間で結ぶことができる。ゆったり寛ぎながら、しかも時間通りに移動できる未来を想像してほしい。Transformationが起きることは間違いない。

Crash Avoidanceの原則に基づく高速鉄道がもたらすベネフィット、超電導リニアについては、以下IHRAのホームページ及びJR東海特設ページにて確認できる。

IHRA
https://www.ihra-hsr.org/jp/

Central Japan Railway Company
https://linear-chuo-shinkansen.jr-central.co.jp/


日本のリニア中央新幹線は開業に向け、準備を加速させている。先ほど紹介した新型試験車両は、IHRAの正会員である、日立製作所株式会社日本車輌株式会社が製造したものだ。高速鉄道は車両だけでなく、高速運行を支える軌道やパワーサプライ、日々のメンテナンス、そしてそれらを統合・管理するソフトの力によって安全が保証され、力を発揮するシステムである。高速鉄道はこうした高い技術力を磨き続ける人々の努力によって進化を遂げている。IHRAは、高速鉄道を通じたより豊かな世界の実現に向け、各国関係者や正会員らと連携を密にして活動を続けていく。

超電導リニアの技術が日本、そして世界にどのような変化をもたらすのか、目が離せない。変革はすぐそこまで来ている。